プランクトン学会 会長就任にあたって
このたび、プランクトン学会会長を拝命いたしました滋賀県立大学の伴修平でございます。これから2年間、プランクトン学の普及と啓蒙に尽力してゆく所存ですので、皆様どうぞよろしくお願い申し上げます。津田敦前会長からは、来年度がプランクトン学会創立70周年に当たる節目の年と聞いております。明るい将来展望が開ける何か良い企画を考えたいと思います。
さて、プランクトン学会の秋の大会が2002年に始まって早や20年近くが過ぎようとしています。それ以前は、春と秋の海洋学会に併せたシンポジウムだけでしたから、プランクトン研究者が自らの研究成果を発表する場は、日本海洋学会や日本陸水学会など他の学会が開催する年会しかなかったわけです。それが、いまや独自の年会で毎回60件以上の研究発表が行われるまでになったことは喜ばしい限りです。ただ、なぜか湖沼のプランクトンに関する研究発表が少ない現状にあることが残念でなりません。確かに、淡水プランクトンを研究する大学の研究室や国公立の研究機関はそれほど多くはありません。しかし、いわゆるアマチュアを含む潜在的な研究者人口は決して少なくないと思うのです。これらの人たちにその研究成果を発表する場を提供することができれば、これからのプランクトン学の発展にも寄与することができると期待したいのです。
「プランクトン」がヴィクトル・ヘンゼンによって命名され、水界生態系を下支えする重要な構成要素であることが認識されて130年以上が経ちました。いまや「スポンジ・ボブ」のキャラクターにも登場するほど、「プランクトン」は科学に親しみの少ない方にもなじみ深い単語として浸透しているのではないでしょうか。一方で、研究方法はといえば、相変わらずプランクトンネットで採集された標本中の個体数計数あるいはサイズの測定が主流であることに変わりはありません。この伝統的な手法は多くの情報を私たちに提供してくれますが、分析に時間がかかり過ぎるために観測点を増やすことができない大きな弱点を抱えています。大海原の数カ所で調べたことが、どの程度の真実を反映しているのかは、これまでも、そしてこれからも私たちを悩まし続ける問題です。
しかし、今日的な技術革新がこの古くて新しい問題を解決する糸口を見つけてくれそうです。衛星画像は、ごく表層だけとはいえ、海色から植物プランクトン生産まで推定することを可能にしました。近年のIT技術の発達は膨大な画像メモリーの貯蔵を可能とし、水中カメラを曳航しながら海中に漂うプランクトンの映像を直接記録することによって、水中でのプランクトンの空間分布を描画することを可能にしつつあります。環境DNA解析技術の向上は、コップ一杯の海水あるいは湖水から、その中にいるプランクトン種を同定できるようにしてくれることでしょう。これらの最新技術は私たちが明日の扉を開くための「鍵」となってくれるに違いありません。プランクトン学の未来は明るい。ブレイクスルーはすぐそこまで来ているのかもしれません。
滋賀県立大学環境科学部
伴 修平
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