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シンポジウム・研究集会の案内
第4回 生物海洋研究集会
   
 
カイアシ類ミトコンドリアDNAの構造特性とその系統解析への適用 (word版)
  町田 龍二 (東京大学海洋研究所)

 カイアシ類 (Copepoda) は,節足動物門・甲殻類綱に属し,後生動物内の亜綱生物群としては地球上で最も個体数の多い動物群の1つである.200 科,1,650 属からなり11,500 種が知られるが,その数は実在する種数の15 %程度であるといわれている.その生息場所はほぼ全ての水圏環境におよび,淡水から海水,塩湖,零下の極域海,温泉にもその生息が確認されており,鉛直的な範囲では水深10,000 メートル以上のフィリピン海溝から,また標高5,540 メートルのヒマラヤ山麓でもその出現が報告されている.その生活様式は,浮遊性,底生性,寄生性と非常に多様である.このように,水圏環境に広く適応したカイアシ類の多様性を進化的に理解するためには,その類縁関係と種分化の過程を明らかにする必要がある.しかし,カイアシ類の進化的な理解の基礎となる系統関係については,非常に知見が乏しい.
 本研究ではカイアシ類の進化過程を理解することを目的として,細胞内小器官ミトコンドリアに存在するミトコンドリアDNA を遺伝標識として解析を行った.ミトコンドリアDNA は単一起源に基づくことが明らかな上,組み替えがない,母系遺伝をする,進化速度が速いといった特徴から非常に多くの動物の系統,集団解析に利用されている.本研究では,まずはじめにカイアシ類ミトコンドリアDNA 全塩基配列,または部分塩基配列を決定し,カイアシ類ミトコンドリアDNA の特徴を明らかにするとともに,カイアシ類汎用プライマーを作成した.つづいて,作成したカイアシ類汎用プライマーを用いて,外洋性の Neocalanus 属カイアシ類のミトコンドリアDNA 約4,000 塩基対を決定し,系統関係を解明するとともに,生態学的な情報とあわせて,本属カイアシ類の進化過程を推定した.また,この過程においてカラノイダ目カイアシ類では,単一個体内に多数のミトコンドリアDNA 塩基配列型(ハプロタイプ)が確認されたことから,メッセンジャーRNAを逆転写した相補的DNA を解析し,多数得られたハプロタイプの起源について検討を行い,カイアシ類の系統または集団解析におけるミトコンドリアDNA の遺伝標識としての有用性について論議した.