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会長挨拶

学会長挨拶

会員の皆様におかれましては平素より学会活動に多大なご協力を賜り,心よりお礼申し上げます。2025年度より2年間、学会会長を拝命いたしました東京大学大学院農学生命科学研究科の橋一生でございます。就任にあたりましてご挨拶を申し上げます。

本学会は1952年に日本プランクトン研究連絡会として発足し、その後、1968年の会則改正により、名称を日本プランクトン学会に改め現在に至ります。日本プランクトン研究連絡会の発足から数えて70年を超える歴史の先への舵取り役という大任に、大きな責任と重圧を感じています。会員の皆様のご期待に応えるべく、全力を尽す所存です。どうか御協力を賜りますようお願い申し上げます。

会則に定められているように本学会はプランクトン研究の発展に寄与することを目的として活動しています。日本プランクトン研究連絡会発足後に発刊された会報第1号(1953年9月)の内容は論文や報告ではなく、当時プランクトン研究に携わっていた全国の研究者の氏名と所属機関、その連絡先や専門分野、さらに各個人が所有する文献のリストでした。プランクトン研究を進めるにあたり、情報と連携がいかに重要であるか、そして先達の方々がそれを切望されていたことを窺い知ることができます。この学会に求められた機能は、多様なコミュニケーション手段が発達し、インターネットを通して膨大な情報を容易に得ることができるようになった現在においても少しも変わっていません。コロナ禍による自粛期間を経験し、私たちは対面で持論を語り大勢で議論することの重要性を改めて認識しました。多様性の高さで特徴づけられるプランクトンという生物群に対する理解を深める上で、様々な方が集い、情報を交換し、連携の場を提供する学会の役割は益々大きくなっていると確信しています。

その役割を果たすため、本学会では様々な活動を行っています。出版活動として日本ベントス学会との合同出版英文誌“Plankton and Benthos Research(PBR)”を年4報、和文誌“日本プランクトン学会報”を年2報発行しており、本年度からそれぞれ片野俊也会員、三宅裕志会員を編集委員長とする新編集体制がスタートしました。毎年、両誌に掲載された論文のうち、会員が筆頭著者の特に優れた論文に「日本プランクトン学会論文賞」が授与されます。PBRは、非会員からの投稿も受け付けており、基本ページチャージもかかりません。さらに会員交流の場として春には会員から広く募集したテーマに基づくシンポジウムを、秋には国内各都市において日本ベントス学会と合同で学会大会を持ち回りで開催し、多くの口頭、ポスター発表が行われます。秋の学会大会では学生の優れた発表に対して学生優秀発表賞が授与されます。

本学会は若手の方の活動が活発であることが特色です。毎年秋の大会に合わせて開催される「若手の会」の集いは、非会員も参加可能であり、若手有志会員の皆様によって運営されています。毎回、懇親会を含めて大きな盛り上がりをみせます。学会としては、特に優れた成果を挙げた若手会員に毎年「日本プランクトン学会奨励賞」を授与しています。若手の勢いに負けないよう、私も含め 中堅、シニアの会員の頑張りにも期待しています。このような学会活動の輪をさらに広げるために、ホームページやSNSを利用した情報発信が不可欠です。大変有り難いことに風間健宏会員を委員長とした広報委員会のご尽力により近年広報活動が活発化してきました。学会全体で活動を更に後押ししていければと考えています。

社会的使命に目を向ければ、とくに地球温暖化、海洋の酸性化 貧酸素化、海洋熱波など気候変動に伴う地球規模課題への対応策立案や予測研究において、プランクトン研究の進展にかかる期待は極めて大きいものがあります。ご存じの通り地球上の有機物、酸素生産の半分を担う植物プランクトン、そしてその生産を効率良く利用し循環させる動物プランクトン、バクテリアの動態は大気中の二酸化炭素濃度、水産資源の変動に大きな影響を与えます。目に見える問題として、有害赤潮は言うに及ばず、海洋プラスチック汚染の動態にもプランクトンは深く関わっていることが明らかとなってきました。一方、プランクトンの高い生産性と栄養価に着目した水産養殖餌料開発や微細藻類大量培養による有用物質生産には産業界から高い期待が寄せられ、海外では鉄などの栄養物質散布によって植物プランクトンを大発生させ大気中の二酸化炭素を吸収させることを意図したジオエンジニアリング技術の開発に関する議論が再び活性化しています。陸水のプランクトン研究は理論生態学や進化学において常に先進的なアイデアを産み出し、保全生態学の分野においては生物多様性の機能評価や自然と人との共生に重要な視点を提示し続けています。優美な姿のクラゲたちはいまや水族館では大人気の展示生物となり、美しい生態写真を収めたプランクトン図鑑類も多く出版され、工芸品や美術品の意匠やデザインにプランクトンが取り入れられている例も数多く目にするようになりました。また、採集や飼育が比較的容易なプランクトンは中学校、高等学校における生物教育の教材としての需要もかなり高いのではないかと思います。プランクトンに対する社会的認知度や関心は確実に高まっていると感じます。
本学会が、このような様々な背景をもつ人たちが集い交流する場となり、想像もしなかったブレイクスルー研究や新たな価値観創造の起点となることを願っています。

本学会の何よりの強みは、プランクトンという未だ多くの謎に包まれた不思議で美しく、多様性に富んだ生物群を研究対象とする点です。プランクトンに対する好奇心を共通言語として集い、お互いの興味やアイデアを議論することが、個々の研究を更なる高みへと導く最短の道であると信じています。研究活動を支える資金の多くが国民の貴重な税金で賄われていることを考えれば、使命感や義務感は研究推進を支える重要な要素であることは間違いありませんが、同様に思いがけない発見や、自然の美しさに触れた際の純粋な驚きや喜びを共有することも学問の大切な側面であり、その場を提供することが学会の果たすべき大事な役割だと認識しています。会員であることの喜びを感じられる学会となるよう皆様と共に進んでまいりたいと思っています。どうぞ宜しくお願いいたします。

東京大学大学院農学生命科学研究科
高橋一生